シムコLS-1。このカメラは私が学生時代の83年にデビューした不思議なカメラで、当時の私にとっては全く興味の対象外のものであった。その頃私は「カメラマン」誌と「アサヒカメラ」誌を購読していたが、このカメラの広告は結構立派で、記憶にしっかりと残っている。しかし、その印象は名もないメーカーの平凡なカメラ少年向きモデルといった程度のもので、そのしっかりと残っている記憶といっても「ああ、そういえばあったね」といったレベルである。ただ、「シィーマ」というメーカー名は強く頭にこびりついている。何かとても怪しい雰囲気を感じたのは私だけではあるまい。名前になぜ小さな「ィ」を加えているのか分からず、それが怪しさを生んでいたのだろうし、また、「〜光学」「〜光機」などの企業名が一般的であった当時、それがなかったのも一風変わった印象につながっていたのだろう。
このカメラに興味を持ったのはここ数年である。もっと前からこのカメラが幻のトプコンAM-1の血を引くモデルであることは知ってはいたが、何しろTOPCONの名が消えている以上、以前に見付けたとしても購入には至らなかっただろう。それに、国内ではほとんど売れなかったと見えて、その中古ボディが販売されることは皆無に近い。やはり当時の人は、私と同じような胡散臭い印象を持っていたのではなかろうか。しかし、シムコレンズは時折格安で売られているのを見かけるが、これは各メーカーのマウント仕様を発売していたためであって、いわばトップマンやオオサワなど、タムロンやトキナーの下の廉価なレンズメーカーといったイメージでそれなりに売られたのだろう。ただし、不思議なことにこのカメラの本来の姿であるKマウントのものが中古市場にあまり現れない。
『中古カメラGET』誌に「東京光学への旅」と題して、三宅岳さんがこのカメラとトプコンAM-1とのつながりを明確にレポートして下さったが、これは考えてみるとものすごいことである。それまで捨て置かれた事実が、一人のマイナーカメラを愛するプロカメラマンによって調査され、それが単なる説明的な文体ではなく叙情的に味わい深く描かれているのであるから、それを読んだトプコン党員は大半のものが心を動かされたことであろう。私もこれを境にしてシムコLS-1を本気で意識するようになったのであるが、海外でもほとんど市場に現れず、なかなか入手に至らなかった。
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このカメラの画像は東京の五十嵐さんにご提供頂いたもので、とても素晴らしい状態で保存されている。見たところ、シムコLS-1がトプコンRE200系のボディから進化したものであることは疑いのないもので、軍艦部のプリズム回りのデザインこそ違えど、基本的なパーツの配列やその形状は良く似ている。面白いのはストラップリングを掛ける金具が左下にも付いている点で、これによって横位置以外に縦位置でも掛けることができるのだが、なかなか粋な発想である。絞り優先のAEが組み込まれ、露出補正ダイヤルが巻き戻しクランクの基部に加えられている。全体としてコンパクトではあるが、小さすぎることはなく、丁度良いサイズであると言える。これに専用のワインダーが用意されていて、そのデザインはどうもトプコンAM-1用のオートワインダーIII型とは異なり、グリップの部分がなくなっている。岳さんのレポートによると、その電気接点の位置がAM-1とLS-1では異なった配置だそうで、仮にAM-1があっても、LS-1のワインダーは取り付けられるが駆動しないらしい。 |
スペックや交換レンズ等は次の素晴らしい資料をご覧頂きたい。全国のトプコン/シムコファンのために資料をご提供して下さった五十嵐さんに、心から感謝致したいと思う。(なお、現在このカメラは私がお譲り頂いた。) |