Casca II
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名称:Casca II
発売年: 1948年
メーカー: Steinheil Optische Werke
サイズ: 144x88x40mm
重量: 618 g(ボディのみ)826 g(5cm F2付き)
ファインダー: 一眼式レンジファインダー
レンズ: Steinheil Munchen Quinon 1:2 f=5cm VL
シャッター: 布幕横走りフォーカルプレーン 1/1000〜1/2秒及びB
シンクロ速度: ELECTROFLASH位置で1/50秒(未確認)
製造数: 2000台以下(I・II型合計)
シリアルナンバー: 60038
分類番号: グループ3 |
ドイツ・ミュンヘンにある1839年創業のスタインハイル光学会社(Steinheil Optische Werke)は戦後間もない1948年、目測ビューファインダー機のCasca Iと、レンジファインダー機Casca IIというレンズ交換式フォーカルプレーンカメラを2機種同時発売した。Casca IIはライカM3より6年あまり先行して、ライカM3で話題となった3種の焦点距離に対応する採光ブライトフレーム切替式大型等倍レンジファインダーとバヨネット式レンズ交換、不回転シャッター切替機構を実現し、外観も酷似しているため、M3はCasca IIに影響されたという説もある。しかしCasca IIはライツのパテントに抵触するという訴えと、Steinheilの買収主がカメラ事業に興味を示さなかったことによって、僅かな生産量で終了した。真相は闇だが恐らくライツとスタインハイルははお互いに相手の内容を知らないまま平行して開発を進めたのではないか。ライカM3はカスカにないレバー巻き上げ、パララックス自動修正式ブライトフレーム自動切替、実像式距離計,自動復元式コマ数計など、より実用的機構を有するのは確かだ。他方、カスカのヒンジで下から全開する裏蓋は、フィルム交換の点でライカはおろかコンタックスよりも容易、またボールベアリングを利用したレンズ交換は、重量級レンズには不安が残るものの、手軽さにおいて現在に至るまで凌駕するものは見あたらない。総じて、革新的・独創的ながら独りよがりではなく、当時の世界水準から見て操作性は良好であると評価できる。
ところで、CASCAの由来は創業者「Carl August von Steinheil」の「CAmera」の頭文字であると推測されている。
カスカIIを語るに置いて先ずカメラクエストの愛に溢れる素晴らしい記述を挙げるに吝かではない。 |
【ボディ】ライカM3と横幅は同程度、高さと厚みがやや大きく、並べると随分大きく見えるが、保持する右手側に一段前に出た金属エプロン部があるので大きさの割には持ち易さはライカに軍配が上がる。これはI型の焦点合わせダイヤルがある部位で、機構上変えられなかったのだろうか、残念だがケースに入れれば問題ない。機械加工精度、クロームメッキの質などドイツ製らしい超一級のもので、同時代の日本製カメラとは月と素盆ほどの差がある。
前述のごとくヒンジで上方に全開する裏蓋は、現代のカメラに比肩するほど便利で、ライカとの差別化に十分な機構である。巻き上げ側スプールはスプリングレバーで押さえられているだけで取り外せ、ダブルマガジンにも対応している。 |
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シャッター切替は一カ所のスライドバーで行われる。従来の機種と異なり、作動中は回転せず、高低速が別設定になってもいないし、巻き上げ前でも設定できるので、操作性は非常によい。ただし露出計に連動させるとなれば、後のライカM3及び各国の追従機種の軍艦部一軸不回転ダイヤルのほうが容易と思われ、思想が電気露出計にまで及んでいなかったことを想像させる。このバーは写真では平板に見えるが、断面が三角形でやや上方から見やすくなっている事が現物を所有して初めてわかった。
レリーズボタンの感触は最も優れたMライカに匹敵するもので、横走り布幕シャッターの走行音も極めて静粛である。巻き上げ・巻き戻しはデザイン上統一された大径ノブで、トルクは小さいが高さが不足していて、スクリューマウントライカより素早く巻き上げることはできない。フィルムカウンターは順算式手動セットで、これも操作部が薄いため若干やりにくい。 |
【レンズとマウント】交換レンズとして、標準Culminar 1:2.8 5cm、Quinon 1:2 5cm、広角Orthostigmat 1:4.5 3.5cm、望遠Culminar 1:2.8 8.5cm、1:4.5 13.5cmが知られ、総てフィルター径φ40.5mm、肌理細かなシルキークロームメッキに統一されている。いずれも性能には定評があり信頼できる。カスカ生産中止後、ライカスクリューマウントに改変してタワーブランド等で販売され、本来のマウントよりもこちらの方が目に触れる事が多いだろう。
Casca IIのマウントは従来のどのアイディアとも似ていない独創的なもので、3組6個のボールベアリングで固定する。ロックは無くともまず外れる心配はなく、僅か5度(時計の長針でたった1分!)の回転で着脱出来るという実用性に置いても類を見ない優秀なものだ。着脱ポイントが明確に表示されればライカMのようにブラインドで着脱可能になっただろうと惜しまれる。他方、Casca Iのマウントは全く違う形状をしており互換性はない。同時発売なのになぜこのような意義の少ない2方式を取ったのか理解に苦しむ。Casca IIはマウント内上面に距離計アームがあり、3.5cmと5cmのヘリコイド回転方向はライカと逆、8.5cmと13.5cmはライカと同方向なので、使用中混乱する。フランジバックはライカMより随分長く35.6mmもあり、フランジバックを合わせても距離計カムは数ミリ短い。従ってライカマウントアダプターを作る際には距離計カムに下駄を履かせて連動させることが可能である。特殊な形状のマウントなので、リアキャップは流用困難だが、3.5cmと5cmは後玉に直接φ32mmカブセキャップが可能。 |
【ファインダー】現代の目で見て、全体的に少し緑色が掛かってそれほど明るくはないが、M3ほど明快ではないのはやむを得ないとして、M3以前のどの機種:コンタックスIIa、ニコンS、キャノンIVsなどのすべてを上回る見やすさを確保している。距離計基線長は56mmもあり、等倍ファインダーなので大変高精度だが、実像距離計ではない。
円形のオレンジ色をした距離計窓を見れば、距離計像がどのような色なのか興味を示されるだろうが、やや黄色みが強いだけで自然に見える。全視野が5cm用でブライトフレームはなく、手動レバーによって8.5cmと13.5cmのフレームが切替表示される。ブライトフレームはオレンジ色で視認性は非常によいが、パララックス自動補正はされず、補正マークも入っていないのは気になる。余裕を見て撮影画角より狭い範囲を表示しているのだろうか。35mmには外付けファインダーが必要となるが、アクセサリーシューにはストッパーがなく、専用以外の普通のフットでは前に抜けてしまう。 |
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作例
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Orthostigmat3.5cmは4群6枚構成(2群6枚の資料もあり)の広角で、L39改装版でお馴染みであろう。非常にハイコントラストでヌケがよいと評価が高く、今回もそれを追認した。ボディ側のファインダーは5cm視野なので、外付けファインダーを使用する必要があるが、開放値f4.5なので目測で充分に実用できる。最短距離0.9m弱、近距離はやはり距離計を使用するほうが確実である。L39のOrthostigmatにはMade in Germany U.S. Zoneの刻印があるが、Casca用にはMade in Germanyのみである。 |
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Quinon5cmf2は構成図が公表されていないが、高い確率でSonnar 5cm F2と共通と思われる。描写も非常にSonnarと似通っており、開放からかなり高コントラストで端正な描写を見せる。夜景でのやわらかな開放描写も同様だ。標準Sonnarのコピーは、ソビエトのクローン「Jupiter」とニッコールくらいかと思っていたが、距離計連動カメラ用Quinonがそうなら興味深い。実は終戦間際Sonnar設計者ベルテレがSteinheilに短期在籍していたらしいので、なんらかの関係があるのだろうか。通常Cascaの標準レンズはテッサーアナログのCulminar 5cm F2.8であり、Quinon 5cmは正規販売されていないといわれている. |
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