|
ケルヴィンなんてカメラ、聞いたことあります? ほとんどの方はないでしょうなあ。マイナーなイタリアンカメラ界にあって、その中でもさらにマイナーなメーカーなんですもん。O.M.I.のサンシャインみたいに、マイナーでも何か「おっ!」と言わせるオモシロさがあればまだしも、このメーカーのカメラと言ったらそりゃもう地味。地味の2乗、いや、3乗くらいでしょうか。1960年と62年に2系統のカメラを作ってさっさと撤退しちゃいましたしね。ちなみに52年からと言う説もありますが、そりゃウソっぽいですな。 |
ケルヴィンは正式なメーカー名ではなくモデル名なんですが、ではどこが作ってたのかと言うと、S.E.D.E. s.r.lっちゅうローマのメーカーでして、何の略なのかは不明。当時の広告にも「La SEDE」となってましたんで、「セデ」で問題なしです。
ケルヴィンは若者向けに作られたと『Made in Italy』に書いてありますが、まあ、同時代のクロスター・スポルトやフェラーニア・ゼフィア、ベンチーニ・コロール35などの路線のファミリー向け35mm簡易カメラと言う位置付けだったのでしょう。 |
|
|
ここでご紹介するミノールは名前だけ立派な単玉レンズ(シアンコーティング)と1/50秒だけの単速エバーセット式ギロチン君の定番コンビが装備されてま。一応バルブシャッターだけは選択できますが、絞りはf8固定です。フォーカシングは当然目測。先端のバイクのフロント・スプロケットみたいなヘリコイドを回すと上部の切り欠きに距離が表れます。 |
巻き上げはレバー式になってま。ですんで、やっぱ52年製説はペケ。フィルムのパーフォレーションを回してフィルム送り量を把握し、巻き止めると言うご立派な機構など付くはずがないので、右の画像の通りスプールをドラム状に太くし、巻き上げて行ってもあまりフィルム間の隙間が開かないようにしているんですな。これは赤窓式の使えない35mmの簡易カメラが好んで使った手法ですが、何しろ一番安上がりですからね。 |
|
|
実はケルヴィンには2モデルありまして、先のミノールの他に、左のマイオールと言うちょっとだけ高級なバーヂョンが作られたんですよ。デザイン的にはま〜ったく代わり映えしませんが、絞りがF8以外にF16と22が選択できるようになりました。そのリングがマウント部に加えられているのがお分かりでしょ? でも、言われないと気付かないほど違和感はないっす。 |
また、シャッタースピードも単速ではなく、1/25と1/100秒が加えられバルブも含めると4段階からスピードを選べるようになりました。シャッターそのものの機構は変わらず、単に羽を開閉させるスプリングの張力を緩めたり絞り上げたりしているだけなんですが、これがあるかないかで随分とカメラのランクとでも申しましょうか、立派さが変わってきます。
もう一つ、どう言う訳かアクセサリーシューのデザインも変えられてまして、ミノールでは薄い板バネ状の鉄板が入っていたのにマイオールは丸い模様の薄い板が埋め込まれてます。 |
|
ボディはやはり他社の同じようなカメラと同様、アルミから削り出したもので、ボディそのものがフレームになるんですな。言わば甲虫みたいなもんですが、軍艦部と底蓋っぽく見せるために、わざわざシボ革の上下のボディに段差を付けたり、エプロン部らしき形で出っ張りを作ったり、色々工夫をしてます。でも基本的に一体成型であることは如何ともし難いです。ただし、軍艦部だけは取り外しできるようになっていて、この点ベンチーニよりは手が込んでいると言えるかもしれません。ちなみに裏蓋の止め方が豪快で、このカメラ唯一の特徴かな。ファインダー接眼部の下にある丸い突起は、実はネジでして、これを回して取り外すんですな。思いっ切り出っ張ってますんで、かなりジャマです。んで、内側を見るとフィルム圧板がない…。35mmカメラでフィルム圧判のないカメラって、ある意味スゴイかも。
このカメラで60年にデビューしたケルヴィンは、同年に127フィルムを使用するケルヴィンK型を発売しますが、そのボディを大幅に改造した35mmカメラを62年に作りました。その名も「VINKEL」と言うふざけたものでして、「KELVINを倒置法で表記しました〜」とでも言いたいのか、マークも真ん中の「N・K」を誇張してます。中味はケルヴィン・ミノール・マイオールと変わりません。名前は倒置法でも中味は省略法っちゅう訳です。 |